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言語聴覚士 村上由美氏

略歴

上智大学文学部心理学科卒業、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院聴能言語専門職員養成課程卒業。卒業後2年間非常勤で様々な施設で勤務。全般的な言語聴覚士サービスについて実務経験を積む。
この間第一回言語聴覚士国家試験を受験し、言語聴覚士資格取得。
その後、常勤で重症心身障害児施設の外来部門で発達障害児(広汎性発達障害中心)、肢体不自由児(脳性麻痺中心)の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。 2005年重症心身障害児施設を退社後はフリーで活動。
発達障害関係の掲示板管理、原稿執筆、自治体の発育・発達相談業務(委託派遣)、テレビ出演、セミナーや講演などを行う。

言語聴覚士はまだあまり知られていない資格のように思うのですが、どのようなお仕事なのでしょうか。また、村上さんはなぜこのお仕事に就かれたのですか?

言語聴覚士という仕事は、Speech-Language-Hearing Therapist 略してSTと呼ばれています。聞こえや言葉、コミュニケーションや嚥下(えんげ:食べ物の飲みこみ)について医学的な支援を行うリハビリテーションの専門家です。
専門病院や福祉機関に勤務していることが多いので、なかなか一般的にはお目にかかる機会が少ないですね。
私がこの仕事に就くきっかけになったのは、幼少期にあります。
3歳の時点で言葉を話さず、多動でもあったため、私は母の知り合いの心理士に「自閉症ではないか」といわれたそうです。その頃の記憶は小さかったこともありあまりないのですが、ただ覚えているのは、(話せるようになってからですが)通っていた幼稚園のお絵かきでみんなのように絵が描けなかったことです。丸をグルグル描くだけ。それしか描けなかったんですね。

そんな私を母は「この子はこのまま話しができないかもしれない」「ならばこれは躊躇している場合ではない!」と思ったそうで、当時は珍しかった療育※ を受けさせました。まだ「親の育て方が悪いから、こうなった」といわれていた時代。柔軟な対応ができたのは、教育者である母に心理学の心得があったからでした。4歳で話し始め、療育自体は1年で終わりましたが、その後も母はその内容を活かし、生活の中で出来る工夫をしてくれました。

※療育 ・・・ 認知機能・コミュニケーション機能等の向上のための専門的な指導。
自分がこうした経験をしていたことも、この道に進むひとつのきっかけだったと思います。大学では心理学を、卒業後は言語聴覚士の養成校に進み、国家資格を取得しました。

ご自身の幼い頃の経験が後に活かされるわけですね。では現在、言語聴覚士をされる中で、お感じになっていることはどんなことでしょう。

私は現在、自治体の保健センターや発達センターで、言葉に不安のある母子の発達評価や相談業務も行っています。そこで療育が必要と判断した場合、紹介診療が原則であるため医師や保健師たちと相談し、医師に療育機関を紹介してもらっています。

ただ、療育にはある程度のお金が必要となりますので、相談中、金銭面等で不安のあるご家庭は無料で受けられる相談を継続するなどしています。また、お子さんの状態を受け止めきれていない親御さんについても、相談を継続し、お子さんの状態を受容してから療育に進んで頂くようにしています。療育機関もすぐにいっぱいになってしまい、何カ月待ちになってしまうということもある状態です。そんな時も親御さんが不安を抱え込んだり、お子さんの成長に不利になったりしないような配慮を行うよう心がけています。
このような、障害かどうかを判断する専門家の配置や療育そのものへの関心や知識は、地域格差が非常に大きいのが現実です。小児科医が必ずしも発達障害を知っているわけでもありません。保健センターにST(言語聴覚士)がいない自治体も珍しくありません。講演会や研修などでも保健師や保育園・幼稚園の先生方に講習を行って知識を得ていただくようにしています。
最近療育関係の方向けにコーチング研修を行っていますが、保育園や幼稚園、小学校の先生から「園児の困り感を親御さんにうまく伝えられないけれどどうしたらいいか」など、教育現場での相談や質問を受けることもあります。それでも比較的言葉に関しては、実際に「言葉が出ない・遅れている」ということが起きているので、親御さんも気付きやすいものではありますね。
ここで、何故言葉が出ないかというところですが、さまざまな要因がある一因としてあげられるのは、実はお子さん自身が「言葉を使うことの必要性を感じていないから」ということもあるのです。取って欲しいものがあると、「これが欲しいの?」といって周りの大人が与える。飲みたいもの、食べたいものも先回りして用意してあげる。そういった周りの大人の行動があると、お子さんにしてみれば言葉を発する必要はなくなってしまいます。毎日の生活はとても重要なことで、環境作りは言葉を話す上でとても大切なことなんです。